興味の赴くまま調べ物をしていると彷徨してしまうというお話をダラダラと。
wikipediaに「第3軍に対するパットンの演説」というページがある。WW2時の米陸軍の英雄・パットン将軍の有名な演説のついての項目だ。このページの中で、第6機甲師団への演説においてパットンが語ったものとして、
No bastard ever won a war by dying for his country. You won it by making the other poor, dumb bastard die for his country.
という言葉が挙げられている。
が、これについている和訳が妙だ。私が見た時点では、
「腰抜けが祖国の為に死ぬことで勝てた戦争などない。それで勝ったとしたら他の哀れでクソ真面目な同胞の犠牲のおかげなのだ。」
という訳文が付いているが、どうも趣旨が違う気がする。
「自分たちがお国のために死んだところで戦争に勝てない。敵をお国のために死なせてやる(敵を殺す)ことで戦争に勝てるのだ」という話だったはず。wikipediaの編集履歴を見てみると、どうやら2018年12月に誰かが和訳を変更したようだ。
今、載っかっているような「ボンクラではなく忠義深い真面目な奴が犠牲にならなければ戦争に勝てない」という解釈はありなのか……?
気になって調べていると、wikipediaの姉妹サイトであるwikiquoteのパットンのページが目に留まった。quote、つまりよく引用される言葉(日本語だと名言・格言・故事成語と言ったところか)に特化したページだ。
そこには、この言葉自体がパットン本人の発言ではない、と記載されている。1970年の映画『パットン大戦車軍団』で劇中のパットンが言ったセリフである、と。なるほど、有名映画の名セリフが、いつしか歴史上の人物の発言として人口に膾炙するというのはありがちな話だ。
そうすると、wikipediaに書いてあった、第6機甲師団への演説云々というのは何なのだろうか。注を見てみると、この部分の出典はBrenda Lovelace Gist, Eloquently Speaking, 2010という書籍らしい。書名を直訳すると『雄弁に話すこと』となるので、恐らく雄弁術とか演説法に関する本だろう。歴史研究の書籍ではないので、この本自体はあまり有力な根拠にはならなさそうだ。
さすがにEloquently Speakingを探して、そこにさらなる出典が載っていないか確認するのは簡単ではない。他に何か情報はないかと検索していると、Quote Investigator(「引用句調査員」(直訳))というそのものズバリなサイトに、そのものズバリなページがあった。
真っ先に挙げられているのが「1958年の書籍にパットンの言葉として出ているよ」というもの。この解説が正しければ、wikiquoteにあった1970年の映画が初出という話は否定されることになる。
……私の場合、調べ物をしていると大体このあたりで我に返る。続けるのであれば、その1958年の書籍の実物を確認して……となるが(日本だと大学図書館に行くのがよさそう)、パットン将軍に個人的な恩義を抱いているわけでもないので、今のところ、これ以上は追究する気にならなかった。
このような時間の使い方を時間の浪費と捉えるか、幸せな没頭の時間と捉えるかは何とも言えないところ。これによって何らかの欲望を満たしていることは間違いないのだが。
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